蓄熱が実際にどのくらいの効果があるのかは、実際的にはよくわからないというのが本音です。
ですが、効果があるか無いかで言えば、間違いなくあるでしょう。
蓄熱には、
「顕熱蓄熱」というコンクリートなどによる蓄熱と、
「潜熱蓄熱」というPCMと呼ばれる材料で蓄熱する方法があります。
「顕熱蓄熱」は、温度や熱の移動時間のコントロールが非常に難しく、「潜熱蓄熱」は温度設定がしやすいのですが、
まだまだ開発途上なところがあり、一般的ではありませんので、私は「顕熱蓄熱」を行っています。
私は、現在木造住宅8割、RC住宅が2割程度の割合で設計しています。
木造の場合には、木造住宅の中に RC壁やコンクリート土間を設けて、蓄熱を行っています。
今回は、RC住宅の実際に建てられた住宅での「シミュレーションと実測」をお見せします。
こんな外観のお宅です。
外断熱が70mm、室内側に123mmの断熱材が入っています。
プランは、こちら。
1階は、貸しガレージとお仕事部屋。
2階は、LDKと寝室と子供室と水回りと中庭。
3階は、日射取得用の階段吹抜けと 畳コーナー となっています。
1階エントランス 階段から、 2階LDKと廊下、 3階 階段の吹抜けが繋がっており、
2階LDKのエアコンを効かせる 主たる居室は、 120㎡と通常の住宅程度の大きさがあります。
こちらが1階の蓄熱空間。 壁と階段がコンクリート。
こちらが2階階段ホールと廊下の蓄熱空間。
外気に接する壁は、しっかりと断熱をし、間仕切り壁を コンクリート壁にして蓄熱をさせています。
省エネ性能は、下記の通り。
UA値0.33と断熱等級7にはいっていませんが、ほぼ7に近く。
Q値(換気と漏気を加味)は、1.03 となっています。
そして、今回のお題の蓄熱性能ですが、
LDKの延べ床面積だけで計算していますが、182kJ/㎡Kと、
LDKだけで見れば、国の蓄熱利用の基準を上回っています。
これが 事前の一次消費エネルギーの算定です。
エアコンが国の設定温度と消費エネルギーになっており、さらに運転時間が異なるので 参考になりませんが、
こんな感じ。
そして、実際に消費されたエネルギーはこちら。
暖房は、連続運転に近い状態ながら、基準値ははるか少なく、設計値も少なくすんでいます。
しかしながら、冷房は基準値は上回っていますが、設計値の2倍強使われています。
ついでに、実は消費エネルギーの多い給湯は、設計値より少なくてすんでいます。
回路測定の都合上、照明とその他を合わせて実測していますが、
ここが実に多い・・・。
これは、貸し駐車場の電気代と、お仕事のパソコンが沢山動いている為です。
仮に、照明とその他が 設計値の値だとすると31,864MJで、実測値は74486MJなので、
その差の42,622MJを、実測合計125,413MJから引いた 82,791MJが、
貸しガレージや沢山のパソコンのない一般住宅との比較で妥当だと思います。
吹抜けを含む延床面積が334.9㎡の住宅なので、247.2MJ/㎡ とかなりの省エネ性能の住宅と言えます。
とは言え、その他の実際の消費エネルギーを含んだ年間消費エネルギーはこちら。
仮に1kWhあたり30円で計算すると、年間の合計が385,499円となりますが、
先ほどの貸しガレージやパソコンを除けば、254,480円程度の年間光熱費。
全館的な連続運転の住宅で、この大きなお宅と考えれば、かなり少ない消費エネルギーでしょう。
次に、室温を見てみます。
まずは、夏から。
LDKの設定温度は、冷房は20℃設定とかなり低く設定しています。
夜中は、つけている日とそうでない日があるようです。
外気温が下がる夜に、8月は25℃台のようで、LDK空間の蓄熱が効いていると思われます。
日中も200W平均使っていません。 気になるのは、9月の方が 消費エネルギーが多い事・・・。
平均室温が1℃高いので、ひょっとしたら、遮蔽をされずに 陽だまりが室内にできているかもしれません。
さらなるヒアリングが必要です。
寝室は、扉を開けて、脱衣・洗面・F-CLなどと一体空間で冷房を使用しているとの事。
設定温度は、22℃か23℃で、一日中つけているとの事。 それで、室温は25℃程度。
ただ、この消費エネルギーが多い・・・。 8月は、時間あたり300W。
かなり涼しい状態で過ごされていますが、消費エネルギーは多いですね・・・。
こちらは蓄熱がほぼ無いのも影響しているのか? さらなる解析が必要です。
こちらは、洗面の室温。
扉を開けるだけの 全館空調的な冷房で、室温が27℃平均。
全館空調的な冷房が、消費エネルギーを増やしているようです。
エアコンのない洗面で、27℃は確かに涼しいでしょう。
1日の室温変化は、7月から9月で0.3℃未満。 蓄熱が室温安定に寄与しています。
さて、次に冬を見てみます。
LDKは、21℃程度で過ごされています。
しかしながら、何と! 1月で時間平均 154W !!!!
夏の消費エネルギーより、少ない!
これは、パッシブデザインの設計だけでなく、蓄熱の利用がとても上手くいっているのではないかと思います。
こんな数字は、通常の蓄熱のない住宅ではありえません。
次が寝室です。
やはり、21℃。 200W前後程度で過ごされています。
(2月は低いですが、暖房エネルギーが少ないので、留守の日が多く下げているかと。)
これもかなり少ないです!!!
この住宅のオーナー様、非常に理解が深く、
しっかりと連続運転をしてくれています。
住宅の大きさや、性能にもよって変わりますが、
蓄熱利用のある家は、ある程度連続運転して、熱の収支は、エアコンのサーモスタットに任せた方が、
省エネになるようです。
ついでに、洗面の実測も。
全館連続暖房的に使われているので、
LDKと寝室の暖房と蓄熱により、21℃くらいの室温が安定的に変化しています。
1月も2月も室温変化が0.2℃以内!!!!
やはり、蓄熱は室温安定に繋がりますね!
設定温度と住まう方の体感温度差により異なりますが、
パッシブデザイン(南窓を主たる居室の床面積の20%程度設ける)での蓄熱は、
室温安定は、夏も冬も大いにあり。
省エネに関しては、冬の方が、より効果があるようです。
実測公開 どんどんしていきます!
この記事へのコメントはありません。